しげの秀一、主人公がプロに勝つ苦肉の策

東堂塾との対決、現役2人との勝負は素晴らしく組み立てた勝ち方を演出した。

下りのシビックに対して、1本目は拓海に9千回転までで抑えて走るコトと後ろを見ずに自身のライン堅持を指示した。2本目でのパッシングは、シビックの2速⇔3速のパーシャル区間で、86新エンジンの残り2千回転分で2速を使って抜いた。コレは、最終戦86対決と全く同じ戦術だった。

登りのインテターボに対しては、FFの難点と言われる低速からの立上りを、横並びするコトで作り出させた。

ストーリーとしては、再戦となったプロのドライバー&デモカーへの対策、東堂塾側には対FD高速バトルを想定させて"プロ対応"させ、中低速区間を86に分がある展開に持って行った。

最終決着要因も、イタチか何か小動物が道を横切ったのを、舘が避けてラインをハズし、拓海が登り勾配の最終コーナーでイン側に並んだというモノだった。

しかし、それはおかしくないか?塾長も舘も、コースのポイントもタイムの出し方もわかっているのだ。そしたら、コース攻略として、FDに対応した高速セッティングを必要と判断するだろうか?むしろ、中低速のレスポンス重視したセッティングにするのではないの?

元々、サーキット攻略にノウハウあるヒトほど、レースセッティングではギヤレシオなどを高速セッティングにしない。むしろ、ややローギヤードにされる。第一、閉鎖された峠とはいえ、公道にFDのトップスピードを出せる場所などあるワケがない。大事なのはコースの速度レンジのセッティングであって、クルマの性能としての速度セッティングではない。閉鎖された高速道路ならいざ知らず、峠にはサーキットのホーム/裏ストレートみたいな直線すらないのだ。

この辺から、突飛な抜き方を描き始める。具体的には、夜の峠でヘッドライトを消して追い越しをかけるというネタだ。それは、しげの秀一の現作「MFゴースト」主人公・片桐夏向にも引き継がれた、アタマの中にコース像が入っているというモノだ。

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拓海の前に現れたプロレーサーの壁!! 『頭文字D』人物列伝10【舘 智幸編】
7/30(金) 18:30 Yahoo!ニュース
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ベストカーWeb
 1人の青年がクルマと出逢い、その魅力にとりつかれ、バトルを重ねながらドライバーとしても人間的にも成長していく姿を綴った『頭文字D』は、日本のみなならず、アジア各国でも賞賛を浴びた、クルママンガの金字塔である。

【画像ギャラリー】舘 智幸が駆るシビックタイプRを見る

 当企画は、同作において重要な役割を果たし、主人公・藤原拓海にさまざまな影響を与えたキャラクターにスポットを当てるというもので、ストーリー解説付き、ネタバレありで紹介していく。

 今回は、プロジェクトDを立ち上げてまもなく、藤原拓海の前に立ちはだかったプロレーサーの舘知幸を取り上げる。冷徹な職業レーサーだった彼が、バトル後に得たものとは?

 文/安藤修也マンガ/しげの秀一

■舘 智幸はどんな人物?
 いよいよ現役プロレーサーの登場である。これまで主人公・藤原拓海の前に現れたライバルたちは、もちろん速さで知られた猛者ばかりだったし、なかにはレースやラリーをかじった男もいたが、さすがに"現役"が登場することはなかった。そういった意味でも、この舘智幸は、まさに最高で、最強のライバルとして拓海の前に立ちはだかることになる。

 髪型は男らしさ溢れるベリーショートで、これならレースでヘルメットを長時間かぶっていても気にならないに違いない。一方、彼のルックスで気になるのは、M字のおでこが目立つこと。将来の頭髪の心配は余計なお世話だが(笑)、眉の上には縦線が浮き出ている。これは額がだいぶ張っているということで、彼の意思の強さとリンクしているのか、バトル中も感情の乱れなどが感じられにくい。

 指で鼻の下をこするのがクセで、初登場時から退場時までそこかしこでこのしぐさが見られる。「ズッ」や「ぐす」という効果音もあるので、もしかしたら風邪気味なのか、それともアレルギー性鼻炎などを患っているのかもしれない。彼自身、日頃のレース活動中はキツいと思っているかもしれないし、ひょっとすると拓海とのバトルの勝敗に何かしらの影響を及ぼした可能性もある(?)。

 栃木県を根城とする東堂塾は、走り屋のチームでありながらドラテク教室のようなものでもある。「速さを追求する」ことをモットーに多くの塾生を抱えているが、この舘智幸はそのOBのなかでも「伝説の男」と知られるほどの実力の持ち主だ。現在は何かしらのカテゴリーでレーサーとして活動中ということだが、「クルマに恵まれないせい」(東堂塾の後輩談)で、あまりいい成績は残せてないという。

■公道バトルにレーシングスーツで参上
 敵を倒すと、その敵の実力を凌駕するさらに強大な敵が登場するというのはバトルマンガの王道的展開だ。本作『頭文字D』では、ライバルを打ちまかしたら次のエリアへ、というタームでストーリーが動いていたが、ついにこの王道展開が登場する。

 東堂塾の現役塾生のなかでもツートップの二宮と酒井が負けたことで、そのリベンジマッチとして、ラスボスであり、OBの舘が駆り出されることになるのだ。

 なお、最初に二宮たちの前に姿を現した舘のファッションは、ミリタリージャケット風の上着に大人らしいダーク系のトレーナーで決めている。20年くらい前の峠のシーンにしては気の利いた格好だが、もしかすると周囲に対する攻撃的でダークな思いが表面化しているのかもしれない。

 しかしその後、拓海とのバトルでは、なんとレーシングスーツに着替えて登場する。公道バトルでレーシングスーツというのも違和感はあるが、スポンサーロゴなども付いているちゃんとしたもの。舘のセリフ「これ着るからには遊びじゃすまされねーよな…」からは、並々ならぬ自信もうかがえる。

 このスタイリングが象徴するのは、やると決めたからには本気で挑むという心根の真面目さであり、実は舘が本質的には悪ではないとも言えよう。

 拓海とのバトルで乗ったクルマは、東堂塾の塾長が経営するチューニングショップ「東堂商会」のデモカー。車種はEK9系のシビックタイプRで、当然のごとく、カリカリにチューニングされている。プロジェクトDの両マシン(ハチロクRX-7、最初はどちらが出場するか決まっていなかった)もそれなりに改良されてはいるが、東堂商会はホンダ系チューンに強いということで、その戦闘力は相当なものであると推察された。

■バトルを終えて彼が得たものとは?
 このバトルが切ないのは、クルマ好きにとってヒーロー的な存在であるプロレーサーの舘に、最終的に光が差し込まないことを、バトル前から本能的に察知してしまうから。マシンが強力であることも、逆にその推察を裏付けるものとなり、バトルがスタートしてからも、丁寧にフラグを立てながら、美しくも哀しい展開が進んでいくことになる。

 もちろん、プロレーサーと対峙した拓海のリビドーはビンビンであり、一方で舘も圧倒的な実力を容赦なく見せつける。抜きつ抜かれつで進んでいくバトルは、ヒリヒリするような、皮膚を切り刻まれるような面白さだ。結果、運を味方につけた拓海が、成長著しい主人公らしく、容赦なくプロレーサーに敗北を味わわせた。

 バトル前、そしてバトルの序盤では、自分の出自でもある公道バトルをシニカルな目線で馬鹿馬鹿しいと思っていた舘だったが、バトル後半ではツッパリキャラを捨て、本気になり、バトルに感動している。

 プロが本気にならざるを得ない深刻な事態に次々と直面させられたことで、舘は自分を見つめ直し、最終的に東堂商会の社長にレーサーとしての再起を誓うのであった。プロレーサーへのリスペクトも込められた、しげの先生流のロジカルで素敵な脚本だ。

■1話丸ごと掲載(Vol.239「走るのは誰!?」)
 ■掲載巻と最新刊情報

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