アルピナ、完全にBMW傘下へ!

アルピナBMWの骨格を使いながら、BMWやMとも違う味付けをするクルマだ。ワタシもアルピナB12-5.0を持っている。SOHCだが、圧縮比アップチューンでレスポンス・ピーク共に向上、E32型750をジェントルに速いクルマになっている。

元々、スタンダードをBMWとすると、アルピナは中低速指向、Mはピーク指向が一般的だ。しかし、近年、モデル軒並ターボ化され、チューニングがブーストに及ぶようになると、アルピナの味付けの方がフレキシブルだったりしている。

メルセデスはハイパフォーマンス部門としてAMGしか持たないが、BMWはジェントルなアルピナとレーシーなMの2種類を持てる。ただ、今後、アルピナの自社ノウハウ的なモノが活かされるのだろうか?機械的にジェントルなグレード的な扱いに終わるリスクもある。ポルシェとRUFではないが、独立した会社だと何をするかわからない期待感はあるのだ。コレからは、BMW内の予定調和になってしまう。

******************************

アルピナ信奉者が驚いた「BMWへ商標譲渡」の意味、57年の関係を整理した先に2社各々の道筋が見える
3/29(火) 6:32 Yahoo!ニュース
 7 
アルピナの最高級モデル「B7」。超高性能でありながら快適至極の電子制御サスペンションを備えている(筆者撮影)
 3月10日、ドイツBMW本社(BMW AG)とアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社から相次いでプレスリリースが配信された。「アルピナ」ブランドの商標権をBMW AGが取得し、2025年末をもって現時点で57年に及ぶ両社の協力協定は満了、現在のBMWアルピナの開発・生産体制が終焉するという内容だ。

【写真】アルピナの歴史をつくってきた人々

 アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社が独立した自動車メーカーとして市場に送り出すBMWアルピナの車両は、BMWが取りそろえるきわめて豊富な技術資産をベースに、独自のエッセンスを加えてワンステップ上の高級・高性能を実現してきた。

■超高性能と快適性が両立したブランド

 メーカーに専用開発を依頼した限られた種類のタイヤを採用し、それに合わせて電子制御ショックアブソーバーを持つサスペンションにも専用のチューニングを施す。アウトバーンやワインディングロードなど、一般道におけるテストに非常に長い時間を費やし、サスペンション設定のメニューに通常のBMWにない「コンフォート・プラス・モード」を用意するなど、超高性能と快適性の両立を図っていることが高く評価されている。

 かつてはアルピナの本拠地があるブッフローエにおいて空のボディに1台1台、部品を加えて組み立てられていたが、近年ではBMW AG社内の特別なラインで多くの生産工程が進められるようになっている。直接的な資本関係を持たないにもかかわらず、自動車メーカーが外部の企業に自分のクルマを作らせるのは世界的にも稀なケースであり、BMWアルピナの間の信頼関係の強さを示している。

 BMWグループは2030年にEV販売比率50%以上を視野に入れ、バリューチェーン全体での二酸化炭素排出量を2019年比で33%以上削減する計画を発表、V12エンジンの生産もまもなく終了する。電動化、脱炭素、自動運転という大きな課題を解決するにあたり、自動車の開発・生産体制は今後さらに複雑で大掛かりなシステムとなっていくだろう。

 現在のBMWアルピナのような少量生産メーカーにとっては、コストの面でも法的セキュリティの面でも、さらなる困難が予想される。そうした時代を前に、両社にとってメリットのある形で関係を整理しておこうというわけだ。

 こうした話題ではつい「いよいよ独特の個性を備えた自動車ブランドが大メーカーに吸収されてしまうのか」と感傷的な受け止め方になってしまいがちだが、本稿では一歩退いて、両社にとってこの決断の背景にどういうロジックがあったのかを推測してみよう。

 最初にBMW AGサイドの事情を考えてみる。彼らにとってアルピナを手に入れることは、苦戦している大型高級車セグメントにおいて強いブランド力を得るうえでの最短ルートなのだ。

 BMWの最大のライバルがメルセデス・ベンツであることはいうまでもないが、BMWは3シリーズがメルセデスCクラスに対して販売実績で善戦するものの、より上級のクラス、特に7シリーズはSクラスに歯が立たない状況を長年続けてきた。

 車両自体の完成度の差よりも、BMWはあくまでドライバーズ・サルーンであり、後席に乗せてもらうような使い方をするものではない、という認識が一般に根強いことが大きく影響している。シェアを拡大するには、単純に豪華装備を盛り込み、快適性を優先するだけでなく、冒頭に述べたアルピナのように極限まで高級・高性能を追求した、という方向性を誰にもわかりやすいよう明示する必要があるだろう。

BMWアルピナに払う敬意

 BMW AGが自前で高級車ブランド、あるいはBMW Mと並ぶようなサブブランドを立ち上げる選択肢も検討されたに違いないが、そのブランド・ビルディングには広告宣伝にしろ、ディーラー設備にしろ、途方もない手間と費用を要し、そのわりに見返りが本当にあるかどうかは読みにくい。

 「より高級」を狙った新ブランドがBMWアルピナと競合することは、既存のBMWファンも、BMW AGとしても望むところではないだろう。実際、かねてBMWアルピナの進路を阻まないように配慮してきた。たとえば2000年に高級スポーツカー「Z8」を販売したとき、BMWはマニュアル・トランスミッションしか用意しなかったのに対し、のちに発売されたアルピナ版にはATだけが用意され、守備範囲を分けた、という具合だ。

 いままで述べてきたとおり、BMWにはアルピナというブランドに対する敬意が強く存在するのは疑いない。2026年以降の新型車についても、これまでアルピナが目指してきたクルマづくりが継承される可能性は高いのではないだろうか。

 もう1点、BMWにとって選択肢に入っていたはずと想像されるのは、アルピナを研究・開発・製造部門など含め会社ごと買い上げてしまうことだ。アルピナの本拠地があるブッフローエは、BMWの研究開発センターがあるミュンヘン中心部から100km、ドイツならクルマで1時間の距離にある。ここに従業員300人が勤務している。

 しかし自動車への熱意を源泉とする家族経営を長年貫いてきたアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社にとって、それは決して受け入れられる提案ではなかっただろう。

アルピナ創業家の事情

 自動車事業を立ち上げた創業家2代目、ブルカルト・ボーフェンジーペンにとっての夢は「自動車メーカーになること」であり、ベースモデルをBMWにしながらもゼロからクルマを作れる体制を整え、ドイツ連邦自動車運送局から自動車メーカーとしての認証を得るに至った。

 ブルカルトの熱意を受け継ぐふたりの息子、アンドレアスとフローリアンが現在は共同でCEOを務める。長男のアンドレアス(59歳)はアルピナを手掛ける前にエンジニアとしてBMW AGに就職し、ドイツ・ツーリングカー選手権にドライバーとして参戦した経歴を持つ。その後ドイツの耐久レース選手権にアルピナが復帰すると、自ら監督として指揮を採った筋金入りのカー・ガイだ。最近になって、ついに85歳のブルカルトから、現在85歳のブルカルトから生産車両の仕上がりを最終的にチェックする役割を受け継いだといわれている。

 つまりボーフェンジーペン家に自動車づくりに携わる事業を家業として諦めたくない、という強い意志があったことが、アルピナの商標のみをBMWに譲渡する決断に至らせたと想像される。ブルカルト・ボーフェンジーペンの目が黒いうちに、将来の方向性を固めておきたいというタイミングの問題もあったのではないだろうか。

 商標譲渡後のアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社は、ボーフェンジーペン社と名称を改めたうえで自動車の開発とエンジニアリング業務を続け、「新しいモビリティ」の開発にも挑戦するという。「われわれの深い専門知識とノウハウを活用し、これまでと異なる、印象的なモビリティを市場へ届け続けたいと思います」と、フローリアン・ボーフェンジーペンCEOはプレスリリースの中で述べている。

 車両のチューニングや性能・安全性の検証、試作など自動車づくりの根幹であるエンジニアリングは、プロジェクトごとに社外へ委託されることも多い業務だ。BMWとの協力協定が解消されたあと、ボーフェンジーペン社は他の自動車メーカーの仕事を受けることも可能になる。

■少量生産の内燃機関車は残る? 

 最も楽しみなのは「新しいモビリティ」に関してだろう。具体的に何を念頭としているのかはまったく明らかにされていないが、たとえばゴードン・マーレイ氏やジャンパオロ・ダラーラ氏のような独立した超高性能自動車メーカーとして、ボーフェンジーペン社ならではの洗練された少量生産車を生み出すことも期待できるのではないだろうか。ちなみにEU2035年までに内燃機関車の全廃を打ち出しているが、年間生産数1000台未満のメーカーはこれを免除される方針である。

 今回の商標譲渡の対価は公表されていないが、もう十分に裕福なワイン生産者であるボーフェンジーペン家は、来るべきそうした時代まで本当に優秀な技術者たちは手元から手放さなくてもいいほどの資本を、アルピナの商標と引き換えに手に入れたはずだ。

 その前に、まずは2025年までに送り出されるアルピナの新作たちが、果たしてどのようにわれわれを魅了してくれるのかを楽しみに待ちたい。ボーフェンジーペン社が今後充実させるというクラシックカー事業に従い、これまで作られてきたアルピナ各モデルに関する修理用部品やサービスは長期的に保証される、というのも既存オーナーにとって嬉しいニュースだ。
田中 誠司 :編集者、PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役

******************************