30年審判の眼から見た投手ベスト5!

92年から約30年審判を務めた佐々木昌信サンが見て"スゴいと思った"投手5人。

上原浩治>吉見一起>金子千尋>藤川球児>佐々木主浩という感じらしい。

恐らく、打者、捕手の次に近くで見て、ミットに収まる音まで聞いて、それらの反応まで一部始終を感じ取ったのだ。

上原浩治を1番に挙げたトコに、玄人を感じる。大学時代から全日本に選ばれ、国際試合無敗を誇る。それは巨人に入ってからも変わらず、第1回WBCでも日本のエースとして、渡辺俊介和田毅でも止められなかった韓国を準決勝で止め、決勝戦キューバ松坂大輔に引き継いだ。

投手として、ストレートとスライダーとフォークをほぼ同じフォームとリリースで行うし、コントロールの素晴しさはあるが、初速数字は150キロもなかったが、割と高めのリリースポイントからの腕のスイングの速さと強さがあった。その見極めの難しさが、国際試合無敗のベースだったし、140キロでもメジャーで中継抑えを全うした要因だった。

大抵の投手は甲子園出場校のエースだったり、勝てないチームながらエースであるコトが多い。しかし、カレは高校時代は建山義紀の控え、外野手兼控え投手だった。1年受験浪人の間のトレーニングで変わったと言う。大阪体育大学で頭角を現し、日本代表、キューバ戦勝利と積み重ね、巨人ドラフト逆指名、新人20勝とステップアップして行った異色の投手だった。

 

 

 

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元審判員が選出する「本当にすごいと思った名投手」。松坂、ダルビッシュ、大谷よりもすごい5人とは?
4/19(火) 18:15 Yahoo!ニュース
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現役時代、日米通算134勝、128セーブ、104ホールドを挙げた上原浩治
プロ野球の審判員として1992年から2020年までの29年間、2414試合をジャッジした佐々木昌信氏。一昨年に引退し、現在は実家の寺院を継いでいる。そんな佐々木氏に、29年の審判生活のなかで、強烈に印象に残っている5人の投手を挙げてもらった。

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ダントツNo. 1の投手は?

上原浩治(元巨人など)

 上原投手は、ストレート、フォークボール、スライダーと、すべての球種がカウント球にも、勝負球にも使えた。つまり、三振を狙って「空振りをとる」、ダブルプレーを狙って「ゴロを打たせる」、ツーアウトからチェンジを狙って「フライを打たせる」ことができた投手でした。

 なかでもフォークは3種類を自在に投げ分けることができた。カウントをとる落差の小さいフォーク。いわゆるスプリットです。そして空振りをとる落差の大きいフォーク。そしてスプリットよりもスピードのあるフォーク。当時からフォークでカウントを稼げる投手は圧倒的に少なく、そういう意味でも上原投手は突出した存在でした。

 またスライダーは左打者の内角に食い込んでくるので、ほとんどのバッターが差し込まれていました。

 なにより上原投手の最大の武器はコントロール。9イニングの平均与四球率が2.00だと「抜群のコントロールを誇る」という部類に入るそうなんですが、上原投手は通算1.26。たとえば、昨年のセ・リーグ防御率1位の柳裕也投手(中日)が2.15、パ・リーグ1位の山本由伸投手(オリックス)が1.86ということを鑑みると、この数字がいかに驚異的だったかわかります。

 とにかくボールゾーンで打者の目先を変えなくても、ストライクゾーンだけで勝負できるから、球数も少なかったし、試合時間も短かった。私の29年の審判生活のなかで、ダントツのNo. 1投手です。

超一流のボールの出し入れ

吉見一起(元中日)

 スライダー、シュートを持ち球とする吉見投手は、「空振り三振」よりも「ゴロを打たせる天才」でした。

 とくに右打者の内角のボールゾーンからストライクになるスライダー、外角のストライクゾーンからボール球になるスライダーは絶品でした。吉見投手のスライダーは、ストレートと思い違いをしてしまうほど、ホームベース通過直前ギリギリまで曲がってこない。思わず「ストライク!」と右手を上げてしまったことがありました。

 吉見投手は2008年から5年連続2ケタ勝利を挙げ、そのうち2009年と2011年が最多勝。ただヒジを痛めたことで、意外にも100勝に届いていません(通算90勝)。ケガがなければ何勝していたんだろうと思うほど、完成度の高い投手でした。

金子千尋日本ハム

 当時、セ・リーグを代表するのが吉見投手なら、パ・リーグを代表するのが金子投手(当時・オリックス→現・日本ハム)でした。ふたりとも社会人野球のトヨタ自動車を経てのプロ入りだったのですが、ボールの出し入れで勝負するという点ですごく似たタイプの投手でした。

 同時期、パ・リーグにはダルビッシュ有投手(当時・日本ハム→現・カブス)という圧倒的な投手がいて、日本ハムの大エースとして君臨していました。

 一方の金子投手は、時折リタイアする印象があったのですが、私のなかではダルビッシュ投手よりも上だと思っていました。それはなぜかというと、ダルビッシュ投手は四球で崩れる試合があったのですが、金子投手はそれがなかった。

 しかも多彩な変化球を自在に操り、バッターに的を絞らせなかった。また、身長180センチ、体重77キロのスマートな体でしたが、球質はズシリと重かった。

 ストレートも変化球も腕の振りがほとんど一緒で、球持ちもいい。審判からすると、ジャッジするタイミングを合わせづらい投手でした。ということは、打者も絶対に打ちづらいはず。ボールのキレという意味で、最高の投手でした。

わかっていても打てない魔球

藤川球児(元阪神など)

 藤川投手の、いわゆる"火の玉ストレート"はコースを突くのではなく、基本ストライクゾーンだけを狙って勝負してくるので、審判仲間では「プレイをかけたら立っているだけでいい。判定不要」と冗談で言っていたほどでした。

 以前、キャンプ中に鈴木誠也選手(当時・広島→現・カブス)からこんなことを言われたことがありました。

「いま日本で一番勢いのあるストレートを投げるのは藤川投手とマシソン投手(巨人)ですかね?」

 藤川投手とマシソン投手のストレートのイメージは、表現として合っているかどうかわかりませんが、大砲をドーンと打ち込まれた感じ。そう感じたのは藤川投手とマシソン投手だけで、わかっていても打てないストレート。とくに藤川投手のストレートの軌道というのは、今でも忘れることができません。

佐々木主浩(元横浜など)

 佐々木投手のフォークボールは、ど真ん中にきて、そこから真下にストンと大きく落ちる。不規則な回転で落ちるフォークを投げる投手は多いのですが、佐々木投手のようにきれいな回転のピッチャーは珍しい。バッターとすれば、ストレートと思った瞬間、落ちるという感覚だったと思います。

 球種はほぼストレートとフォークだけなのに、まったく打たれる気配がなかった。"ハマの大魔神"の異名どおり、無敵の存在でした。

 当時、巨人の主砲だった落合博満選手は、「フォークと思うから落ちるように感じる。速いカーブと思って打てばいい」と言っていたのですが、対応できた打者は皆無でした。

 そんな佐々木投手のフォークですが、なぜ打者がワンバウンドのボールを振るのか不思議でなりませんでした。じつは、ジャッジのために腰をかがめた際、球審の目線からは佐々木投手のフォークの握りがはっきりと見えていたんです。だから判定はしやすかったのですが、あのストレートの軌道から消えるように落ちるフォークは、まさしく魔球でした。
水道博●文 text by Suido Hiroshi

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