馬力やトルクだけ?ホントにわかって書いてるの?

単なるエンジンについて語るなら、馬力なりトルクなりを記述すれば問題ない。

しかし、クルマの運動はそれだけではない。

エンジンが動かすのは、クルマ自体だ。本来はエンジンが回って、発生するトルクがクルマを動かし、その単位時間の仕事率が馬力だ。計測器はトルクを表示し、馬力はあくまで計算値。ヒトが通常感じられるのは、エンジンのトルクが車両重量を動かしている仕事だ。ヒトがパワーを感じるほど、エンジン回した状態で踏み続けるシチュエーションはない。もちろん、細かく言えばキリがない。デフのファイナルレシオやミッションのギヤ比など、数値が大きいと発生トルクが大きくなるし、小さいと少ない回転でスピードが出る。

指標的には、ピーク性能を示すならパワーウエイトレシオだが、実用レスポンスを示すならトルクウエイトレシオの方が適切なのだ。

つまり、この記述には、どちらにも車両重量の観念が抜けている。

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 馬力信仰にモノ申す!! 運転の楽しさを司るトルクの重要度と新時代
馬力信仰にモノ申す!! 運転の楽しさを司るトルクの重要度と新時代
2021/12/09 13:02 ベストカーWeb

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 クルマのパワーを表す要素として最重要視されるのが馬力だ。現在でもクルマの高性能を示すため「○○馬力オーバー」などといった表現を使うことも多い。

 だが、ちょっと待ってほしい。ホントに馬力の大きなマシンだけが速いと考えていいのか? 実は、パワーを決める要素には馬力の他にトルクもあり、特に停止と発進を繰り返す街乗りにおいて、トルクの果たす役割は馬力以上に重要とも言えるのだ。

ランクル アルファードは何位?カテゴリー別「馬力王」国産&輸入車選手権

文/長谷川 敦 写真/トヨタ、日産、ホンダ、メルセデスベンツアストンマーチン、写真AC

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まずはトルクと馬力の違いについておさらいしよう

馬一頭が1秒間に75kgの重りを1m引き上げる力1ps(馬力)と定義されるが、実際の馬は短時間であればこれよりはるかに大きな力を出すことができる

 最初はみんながイメージしやすい馬力から。馬力とは、馬一頭が出せる力(=仕事率)を数値化したもので、これは瞬間最大ではなく継続的に出せる力のこと。馬力の単位には、ヤード/ポンド法をベースにしたイギリス式の英馬力(hp・Horse Power)と、メートル法に基づいたフランス式の仏馬力(ps・Pferde Starke)があるが、このベストカーWebでは日本でもポピュラーな仏馬力を使用することが多い。

 なお、仏馬力と英馬力の差はわずかであり、1ps(仏馬力)は0.986hp(英馬力)に値する。同じエンジンの出力を英馬力で表す場合、仏馬力よりも数値が小さくなるが、ほぼ無視してよい違いだ。詳細は下の換算表で確認してほしい。

 仏馬力では1秒間に75kgの物体を1m動かせる力を指している。現在では国際単位系に準拠して、馬力ではなくW(ワット)が正式な単位になっており、1馬力(ps)は735.5Wと定められている。とはいえ、やはりワットで言われても、もうひとつピンとこないのも事実。そこでこの記事ではps単位を基準に進めていきたい。

 馬力(最高出力)がその名のとおりエンジンが発生する最大出力を意味するのに対し、トルクは回転力の大きさを表している。トルクの単位はkgm(キログラムメートル)。30kgmは、回転軸の中心から1mの距離で30kgの重りを回せる力だ。最近ではトルクも国際単位系のNm(ニュートンメートル)を使用することが多いが、馬力同様にこの記事ではkgmの単位を用いたい。

 kgmをkgfmと表記することもある。厳密には、kgは物質が持つ質量のことで、kgfは物体にかかる力を指している。10kgの物体の質量は、月面など重力が異なる場所に持っていっても10kgだが、地球で10kgfの力は月ではその1/6になる。トルクの場合もkgfmが正確と言えるが、宇宙飛行士でもないかぎり、現代においてクルマのトルクの話をするのは地球上に限定されるのでkgm表記でも問題はない。

 馬力とトルクはどちらのエンジンが出せる力なので相関関係がある。つまり馬力の大きいクルマはトルクも大きい傾向があるが、どこまでエンジンを回せるかによって馬力は変化するので、必ずしも大トルクエンジンの最大馬力が大きいわけではない。

トルクが太いと何がおトク?

現代の市販車でもっとも大きなトルクを誇るのがこのベントレー ミュルサンヌだ。その数値は104.0kgmと驚愕の3桁越え。一度はその加速を味わってみたい

 トルクは力の一種なので「トルクが大きい」または「小さい」と表現できる。しかし、クルマのトルクを語る際に「大きい」「小さい」ではなく「太い」「細い」を使う人は多い。これは実際にドライブしているときに大きなトルクを発生するエンジンを「トルクが太い」と感じるのが理由。この記事は科学論文ではないから、そこまで厳密な言葉の使い分けはしないのであしからず。

 トルクと馬力の走りにおける違いを簡単に説明すると、トルクが大きければ静止状態からクルマを発進させる力が強く、馬力の大きいクルマは最高速度が速くなる。つまり、最高出力がいかに大きくても、低回転域におけるトルクの小さいエンジンでは、クルマを力強く加速させることはできない。実際に高回転・高出力型のエンジンはトルクが小さくなることも多く、低速側の減速比を調整してトルクの細さを補っている。

 反対に低速トルクの大きいエンジンを積んだクルマは、車体が重くても十分な加速力が得られる。ただし、得てしてこうした特性のエンジンは最高回転数を上げにくく、最高速度も頭打ちになりがち。広い回転域で大きなトルクを発生するエンジンは良好なドライバビリティをもたらしてくれる。

市販車のトルク王は?

見事国産スポーツカーのトルク王に輝いた日産GT-R NISMO。66.5kgmの大トルクを4WDシステムが確実に受け止め、車体を軽々と加速させる

 「R35GT-Rのエンジンは570psを発揮する」「いや、国産車の馬力ならLFAだって負けてない」など、馬力に関するネタは豊富で、カタログでも最高馬力を誇らしげに表示するモデルも多い。

 では、ある意味馬力以上に重要なトルクはどうだろう? 皆さんは国産車のトルク王がどのモデルなのか知っていますか? これにすぐに答えられる人はかなりのマニア。ここではそうした“通”ではない読者にトルク王を紹介していこう。

 国産スポーツカーにおけるトルク王は日産R35 GT-R NISMOだ。このモデルは600psの最高出力も強烈だが、トルクも66.5kgmと圧倒的。最高出力がエンジン回転数6800rpmで発生するのに対し、最大トルクの発生回転数は3600rpm。この特性がGT-R NISMOに驚異的な加速性能を与えている。

 重量のあるSUVではトルクが大切だが、この部門でのトップはトヨタランドクルーザー300(FJA300W型)。71.4kgmのトルクを1600rpmで発生する。このモデルに搭載するエンジンはディーゼル方式であり、ディーゼルエンジンの特性として、ガソリンエンジンよりも低回転で最大トルクが得られる。そのためかなり低い回転数でこれだけのトルクを生み出している。つまり力強い発進力ならディーゼルに分があるといえる。

 コンパクトカーのトルク王には37.7kgmでトヨタGRヤリスが輝いた。しかし、このクルマはコンパクトカーとはいっても一般的なコンパクトカーとは少々毛色が異なるのはご存じのとおり。それでもナンバーワンであるのは間違いない。

真のトルク王はEVだった!?

オール電動モデルの日産 リーフ。写真は2021年4月に発表された仕様向上モデルで、最大トルクも34.7kgmと標準モデルより大きくなっている

  ここまでは燃料を燃やして動力を得る内燃機関を搭載したクルマのトルク王を紹介してきた。だが、トルク王を考えるうえで電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)の存在は無視できない。その理由は動力に使われる電動モーターの特性にある。

 内燃機関の最大トルクがある程度回転が上昇してから得られるのに対し、電動モーターは回り始めたその瞬間に最大トルクを発生する。詳しい解説は省略するが、これは内燃機関と電動モーターの仕組みの違いによるもの。低速で大きなトルクを発生することが加速面で有利なのはすでに述べてきたが、この理屈でいえば、電動モーターを搭載するEVやHVのほうが高い発進力を発揮できることになる。

 参考までに代表的な国産EVの一台でもある日産リーフ標準モデルのSでスペックをチェックしてみると、最大トルクは32.6kgm。この数値自体はそこまで驚くものではないが、注目はその発生回転数が0~3283rpmになっている点だ。つまりゼロ発進からいきなり最大トルクで加速できるということ。

 低速域のトルクの太さは電動モーターと内燃機関を組み合わせたハイブリッド車でも同様だ。ゼロ発進から低速区間はトルクの大きいモーターが主な動力源となり、高速では主に内燃機関の力によって走行する。こうして両者の利点をうまく活用しているのだ。

 ちなみにハイブリッドスポーツのホンダNSXも56.1kgmの最大トルクを2000rpmという比較的低い回転数で発生させる。

 ここまで読めば、トルクの重要さもわかってもらえたはず。これから新たにクルマを購入しようと考えている人は、馬力と同時に最大トルクとその発生回転数もぜひチェックしてほしい。クルマに対する考え、スペックの見方が変わるかもしれない。

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