バルセロナ五輪、初めてドリームチームが召集された。M・ジョーダン、S・ピッペン、R・バード、K・マローン、J・ストックトンらは、大学バスケで国際式に慣れ、五輪で圧勝した。
90年代までは、NBAルールという1対1を奨励する、イリーガルディフェンスがあった。相手動向に構わず、ペイントまで戻るゾーンディフェンスは使えなかった。
M・ジョーダンのリピート3ピート、シカゴ・ブルズの攻撃戦術トライアングル・オフェンスも、最終オプションはジョーダンの1対1任せだった。K・ブライアントらも、それらを見て育った。
しかし、NBAの隆盛とは正反対に、アメリカバスケットは世界選手権で惨敗が続いた。ゾーンを崩す、カットインもパスやドリブルスキルも3点シュートも求められた。イリーガルディフェンスが廃止され、ディフェンス側のペイント内3秒ルールが設定された。
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「安西先生、バスケがしたいです」桜木花道、ジョーダン…90年代からバスケを見ていない人にこそ教えたい「今のNBAを見ないなんて残念!」
6/22(水) 17:02 Yahoo!ニュース
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マイケル・ジョーダン。シカゴ・ブルズは90年代に2度のスリーピート(3連覇)を達成。日本でもNBAブームが起きた photograph by AFLO
もしも、1990年代にNBAに耽溺していた人が、なんらかの理由で20年ほど、NBAの試合を見られなかったとする。
【写真】覚えてますか?スラムダンク、山王工業・河村兄&「河田兄が主役級になった感じ」現役NBAプレーヤーとは?やっぱりカッコいいジョーダンのダンクなど…この記事の写真をすべて見る(全10枚)
1990年代といえば、こんな単語が並ぶ時代だ。
マイケル・ジョーダンに、エア・ジョーダン。
ドリームチーム。
スリーピート(2回ね)。
スラムダンク。
桜木花道。
バスケがしたいです……。
そこで時間が止まっていた人が、2022年のNBAファイナルを見たら、きっとたまげるだろう。
デカい選手が、なんでこんなに上手いんだ!
あの桜木花道がスリーポイントを40%ほどの確率で決める感じなのだ。
さすがに、ゴール下の番人である赤木と魚住にスリーは求めない。
感じとしては、流川、山王工業の沢北がもう5センチほど身長が高く、同じ質のプレーが出来る印象だ。
そういえば、『スラムダンク』の登場人物で、ひとりだけ現代でも通用しそうな選手がひとりだけいた。
山王工業の河田兄だ。
ガードから出発したからドリブルは巧みで、アジリティ(敏捷性や軽快さ)を維持したまま身長が伸びたため、フォワードでありながら細かいプレーが出来る。弟の美紀男は無理だが、河田兄は時代を先取りしたキャラだった。
90年代とはここが違う「スリーポイントの割合が増加」
今年のファイナルに話を戻せば、ゴールデンステイト・ウォリアーズが4勝2敗でボストン・セルティックスを破って4年ぶりの優勝を飾った。この8年間で4度目の王座に就き、まさに黄金時代と呼ぶにふさわしい。
ウォリアーズの選手たちは、みんな巧い。
ステファン・カリー、クレイ・トンプソンにドレイモンド・グリーンの3人は不動の核。
そして今季は、アンドリュー・ウィギンズが大ブレイクし、3年目のジョーダン・プールも台頭した。ディフェンスのスペシャリストで、ゲイリー・ペイトンの息子がいるのもうれしい。
1990年代とは時代が変わったなと思うのは、ファイナルでのスリーポイントのアテンプト数だ。ウォリアーズは出場した14人中11人がシュートを打ち、そのうち9人が決めている。
対するセルティックスでは出場した15人のうち、スリーポイントシュートを放ったのは13人で、そのうち12人が決めている。
ジョーダンが最後の優勝を飾った1998年のファイナル、ブルズは12人中7人、ジャズは12人中5人がスリーを決めていたが、割合が増えているのは数字を見れば分かる。
「身長の高い選手が支配するバスケ。つまらないでしょう?」
では、なにが変わったのだろうか。
ここは、前女子日本代表ヘッドコーチの、トム・ホーバス(現在は男子のヘッドコーチ)の言葉を借りよう。
「女子日本代表には、ウォリアーズのようなスタイルを徹底しようと話をしたんです。ボールをよく動かしてフリーになる選手を作り、スリーポイントをどんどん打っていく。2020年を迎えても、世界の女子バスケは時間が止まってたんですよ。1990年代のNBAと同じ。身長の高い選手が支配するバスケ。ぜんぜんつまらないでしょう? 東京オリンピックでは、日本代表のスタイルが面白いし、世界で通じることを証明できたのがうれしかった」
実際、アメリカのメディアは「日本代表は、ウォリアーズとロケッツの遺伝子を引く子どものようだ」と評したこともあったほどだ。
では、ウォリアーズのスタイルはどこから生まれたかというと、これは2014年からだ。
当時、私はNHK BS-1の番組のキャスターを務めていたが、幸運にもウォリアーズのGMであるボブ・マイヤーズ、ヘッドコーチのスティーブ・カー、そしてステファン・カリーにインタビューすることが出来た(チーム広報が素晴らしい仕事をしてくれた)。中でも、カリーの言葉が記憶に残っている。
「2014年、スティーブがヘッドコーチになって強調したのが“ボール・ムーブメント”だった。コーチは前のシーズンまでのウチのスタイルを分析して、パス数がリーグ最低だという数字を示して、『個人の力に頼りすぎている。もっとボールを動かして、フリーの選手を作ろう。みんなで得点をプロデュースするんだ』って話してくれたんだ。実際、一定の数のパスを通した場合の勝率がグンと上がっていた。まったく気づかなかったから、それこそ眼から鱗でね。そこからウォリアーズのバスケットは変わった」
201cmのガード「河田兄が主役級になった感じ」
これが革命の始まりだった。
ボールはスピーディに動くようになり、「ファイブアウト」(5人全員がアウトサイドのプレイヤーとして攻める)のフォーメーションによって、コートに出ている全員がオフェンスに参加できるようになった。
この流れのなかでオールラウンダーの株が上がった。中でもスロベニア出身で、ダラス・マーベリックスでプレーするルカ・ドンチッチはとんでもない選手だ。彼は身長201cmのコンボガード(PGとSG、両方の役割ができる)。2メートル超えで、ガードなのだ。
まだ23歳だが、今季は1試合の平均得点が28.4、リバウンドが9.1、アシストが8.7と平均でトリプルダブルに届こうとする勢い。スリーポイントの正確性だけでなく、ゴール下でのアーティスティックなフィニッシュは、新しい時代の代表格と言っていい。
ドンチッチのキャラは、『スラムダンク』では連想しづらい。まさに、河田兄が主役級になった感じなのである(1990年代のブルズにいたトニー・クーコッチには同じような素質があったのだと思う。時代と共にバスケが進化し、ドンチッチのような選手が“現実化”したのだと思う)。
超人たちによる、スリーポイントの狂い咲き
チーム全体としては、ウォリアーズは先行者利益を確立したが、当然、他のチームもキャッチアップしてくる。
ファイナルで敗れたとはいえ、セルティックスも素晴らしいチームだった。
セルティックスはシーズン序盤こそ「アイソレーション」(1対1のシチュエーションを作るために、他の4人が反対側のサイドに集まる)を多用していたが、終盤はボール・ムーブメントを重視して成功、ファイナルに駆け上がった。
特にエースのジェイソン・テイタム(203cm)は、5年目の24歳。デューク大学時代から素晴らしいポテンシャルを発揮していたが、セルティックスに入って1年目のシーズンは、スリーポイントのアテンプトが平均3本だった。しかし年々数字が増え、今季は8.6本を打つまでになった。
ただし、成功率は1年目の43.4%から35.3%に落ちている。今のNBAは、それでいいのだ。正確性より、アテンプト優先。そういえば、トム・ホーバスがこんなことを言っていた。
「日本の選手たちには、入れてとは言いませんでした。“打って”と言っていました。打てるチャンスを増やせば、それだけシュートが決まる絶対数も増えますから」
超人たちによる、スリーポイントの狂い咲き。
いまのNBAは本当に面白い。地上波、BSなどで見られないため、この話題をシェアできる人の絶対数が少ないのが残念でならない。
なんと、ウォリアーズが9月末に来日する
ここからは個人的な話になるが、現地でのウォリアーズの取材を経験してから、彼らを贔屓にしている。
カリー、トンプソン、グリーンの3人は純朴な青年たちだった。
当時、すでにNBAでは試合開始前のインタビューは難しい状態になっていたが、ウォリアーズは選手が気さくに話してくれた。他チームとはまったく違っていた。
そして彼らが同じユニフォームを着て、優勝の喜びを分かち合っていることに、大きな価値を感じる(一時、チームからトレードされていたアンドレ・イグダーラが戻ってきたこともうれしかった)。
アメリカのプロスポーツは移籍が当たり前になり、ひとつのチームでキャリアを終えることは稀になった。
ウォリアーズはチームの核、コアグループを残しつつ、ウィギンズ、プールといった新世代の選手を入れて、チームを復活させた。
このウォリアーズ、なんと9月末にプレシーズンゲームで来日する。
対戦相手は……八村塁の所属するワシントン・ウィザーズだ。
1990年代、バスケに魅了された人たちには、ぜひともNBAウォッチを再開して欲しい。
この原稿を書いていたら、なんだかまた『スラムダンク』を読みたくなってきた。
(「スポーツ・インテリジェンス原論」生島淳 = 文)
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